練習帰りの思索 スピッツとストラヴィンスキー

演奏曲のこと

こんにちは、中庸的四弦もといチェロ弾きのトノです。

最近は特に寒いですね。

練習に向かうも外は極寒、凍えた手をほどくのに時間がかかる季節になりました。

まあ、練習場にはもっぱら車で向かうことが多いのですが。

車といえば、少し前の練習の帰りに適当な音楽を流しながら運転していると、スピッツの「美しい鰭」が流れてきました。

曲のタイトルだけは知っていたので、新曲だなあ、たしかコナンの映画の主題歌だったかなとぼんやり考えながらイントロを聞いていると、続けて流れてきたAメロ(1:08から)を聴いて衝撃を受けました。

*美しい鰭/スピッツ より Aメロは1:08から

そうなんです。このメロディ、7拍子なんです。冒頭からめちゃくちゃ攻めてる、、、巻き戻して何回も聞き直してしまいました。

普段耳にする拍子、例えば8拍子ではこうはいきません。

譜例1

安定感はあるけれど、どこか間の抜けた印象になりますね。

スピッツの気だるげで寂寥感を含んだ歌声と、7拍子の変則的なグルーヴとの合わせ技を体感してしまうと、普通の拍子では満足できなくなってしまいます。

絶対おかしいのに、ぴったりハマる。その日は家に帰るまでの30分間、ずっとリピートしていました。ああ、カラオケ行きたい。

さて気を取り直して、実は次回の演奏会で演奏する「火の鳥」にも7拍子が出てきます。

組曲の最後、終曲は夜明けを思わせるホルンの美しい旋律から始まるのですが、曲の後半では同じメロディがオーケストラ全体で、そして7拍子に形を変えて打ち鳴らされるのです。

*オランダ・フィルハーモニー管弦楽団 指揮:Marc Albrecht ”Stravinsky | The Firebird (1919 Suite) | Netherlands Philharmonic Orchestra”
譜例2(動画内18:52から – 3拍子のホルンの旋律)
*引用:Igor Stravinsky – FIREBIRD SUITE (1919年版) より 終曲冒頭
譜例3(動画内20:36から – 7拍子の変化した旋律)
*引用:Igor Stravinsky – FIREBIRD SUITE (1919年版) より 終曲・練習番号19から
火の鳥の楽譜は下記を引用しています。
出版社
London: J. & W. Chester, 1920. Plate J.W.C. 17.
再版
New York: Boosey & Hawkes, n.d. Catalog B. & H. 573

同じ7拍子でも、こちらは推進力に満ちたパワフルな演奏です。

変拍子の不安定さがエネルギーに変換されて、あちこちで花火が打ちあがり人々が歓声を上げているような解放感が見事に演出されています。魔王の支配から解き放たれた、まさに大団円といった様相です。

ちなみに小節線の中にある点線は実際の楽譜にもあるものです。7拍子の中でも、

|123 12 12 |12 12 123| 

と分けているわけですが、ホルンの旋律から派生することを鑑みると

|123 1234|123 1234| 

の方が自然なのではないか、とも思われます。

譜例5

*区切りの最初の音にアクセントを付けています

こうして見て(聴いて)みると、自然ではありますが本来の譜面よりもどっしりとした雰囲気になってしまいました。

予定調和的で悪くはないですが、フィナーレの爆発力は本来の譜面の方が何倍にも増しています。

こういった微に入り細を穿つ譜面に出会うと変拍子に対するストラヴィンスキーの並々ならぬこだわり、そして天才性をひしひしと感じます。

この箇所以外にも、火の鳥にはたくさんの仕掛けと驚きが満ちています。何度聴いても、新たな発見に脳を、心を震わされ、曲の魅力にとり憑かれているところです。

そんな「火の鳥」の物語と色彩をみなさんと共有する日を楽しみに、チェロを担いでカラオケに、ではなく練習に向かおうと思います。

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